愛され秘書の結婚事情
そこまで推理、考察し終え、悠臣の胸は幸福感で満たされた。
自分が彼女にとって不要な存在でなかったことが。彼女に必要とされたことが。この上なく嬉しく、幸せだった。
「一体君は、何がそんなに信じられないの」
悠臣は手をつねる代わりに、テーブルの上の彼女の手を握って引き寄せた。口調は元に戻っていた。
腕ごと引っ張られた七緒は、前に大きく上体を傾かせ、茫とした表情で答えた。
「何もかもが、信じられません。桐矢さんのような素敵な男性から求愛されていることも。こうして二人きりでいることも。あなたの口から出る言葉全てが奇跡のようで……ずっと長い夢を見ているようなんです……」
「……夢じゃないよ」
左手で彼女の右手を引いたまま、悠臣は右手で七緒の頬に触れた。
小さなテーブルで互いの上体を倒すと、二人の顔は簡単に近づいた。
鼻と鼻がぶつかりそうな距離になって、七緒は自然と目を閉じた。
彼の温かな唇が、彼女の柔らかな唇に触れる。
その瞬間、胸を満たしていた温かなものが全身に広がって、七緒は陶然とした表情を浮かべた。