愛され秘書の結婚事情
時間が午前九時とまだ早いこともあり、晶代はちょうど朝食の最中だった。
テラスに置かれた洒落た白いテーブルセットに着き、家政婦の用意した西洋風の朝食を取っていた晶代は、二人を見て笑顔で立ち上がった。
「おはよう。いらっしゃい」
そう笑顔で挨拶をされて、七緒はホッとして「初めまして。佐々田七緒と申します」と頭を下げた。
「ああ、あなたが七緒さんね。会えて嬉しいわ。さ、座って座って。朝ご飯は食べた?」
気さくに声を掛けられて、七緒は恐縮しつつ「はい、食べました」と素直に答えた。
「彼女は毎朝、五時半には起きるから。朝食なんてもうとっくの昔に済ませてるよ」
勝手に席に着きながら、悠臣が横から口を挟んだ。今日の彼はこの後出社予定ということで、いつもの明るいベージュカラーのスーツに、春らしいグリーン系の小物を身につけていた。
晶代は憎まれ口をきく息子を無視し、「七緒さん、何を飲む? コーヒー、紅茶、どっちがいい? 美味しいぶどうジュースとオレンジジュースもあるわよ?」と七緒に話しかけた。
七緒はかしこまったまま、「あ、では、紅茶をお願いします」と答えた。
「ミルクとストレートどっちにする?」
「す、ストレートで……」
「はーい、ストレートティーね。トヨさん、紅茶を一つ! ダージリンの秋摘みのいいやつあったでしょ! あれにして!」
晶代の大きな呼びかけに、戸口に立っていたトヨ子は「はい」と短く応じた。
「あ、僕もそれでいいよ」
悠臣が遠ざかる背中に声を掛けたが、トヨ子は聞こえているのかいないのか、無言のまま振り返りもしなかった。