愛され秘書の結婚事情

「ちょっと母さん!」

 唖然とし声も出ない七緒の代わりに、悠臣が抗議の為に立ち上がった。

「確かに僕はオジサンでバツイチだけど、アル中でヤク中っていうのはひどい中傷だ! 酒に溺れたのは十年以上も前のたった数ヶ月のことだし、薬で倒れたのは一度きりだろ! あれから僕はアルコールも薬も一切手を出していない! 頼りないのは事実だけど、そこだけは訂正してよ!」

(頼りないってところは、否定しないんだ……)

 いきり立つ悠臣を見て、七緒は噴き出したいのをぐっと堪えた。

 晶代は面倒くさそうにそっぽを向き、「だけど酒と薬のせいで病院に運び込まれたのは事実だし、夫婦間の不仲が理由でそんな安易な逃げに走る時点で、人としても男としても情けなさ過ぎるわよ」と辛辣な返しをした。

「私は最愛の夫を不慮の事故で亡くした時、しばらくは泣いたけど、酒にも薬にも逃げなかったし、母親としての務めも全うしたわよ。あんたがアメリカ留学したいって言い出した時も快く送り出したし、あっちで就職して結婚した時も、文句一つ言わなかったでしょ。結婚に失敗して逃げ帰って来た時も、小言一つ言わなかったでしょ。あんたとは人としての器が違うのよ」
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