愛され秘書の結婚事情
ポカンとした顔で親子の言い合いを観戦していた七緒は、そこでふっと表情を緩め、「素敵ですね」と呟いた。
「え?」
「何が?」
悠臣と晶代が同時に反応し、二人は嬉しそうに微笑む七緒の顔を見つめた。
「こんな風に、親子でお互いに言いたいことを言い合って、お互いの長所も欠点も理解していて、それでも仲良しでいられるなんて……。本当に素敵です」
七緒の言葉に、悠臣と晶代はそれぞれ別の反応をした。
悠臣は嬉しそうに目を細め、晶代は難しい表情で眉根を寄せた。
「七緒さん」
晶代は難しい顔のまま、言った。
「あなたと悠臣が、突然の婚約に至った経緯は聞いたわ。郷里のご両親にはもう、息子との婚約について報告はしたの」
「いえ、まだです……。まず桐矢さんのお母様に許可をいただいてからと、そう思ったので……」
「そう。さっきも言ったけれど、私はあなた達の結婚に賛成よ。あなたに対しては感謝しかないわ。うちの馬鹿息子を引き取ってくれてありがとうって思ってる。本当よ」
「はい」
真っ直ぐな瞳を向ける晶代を、七緒も素直な笑顔で見つめ返した。
「だから、これから親御さんに息子との交際を反対されたら、私で良ければいくらでも力になるから。何か困ったことがあったら何でも相談して。うちの電話番号も教えておくから、悠臣抜きでも気軽に電話して。いい?」
晶代の言葉はストレートな分、七緒の心にも真っ直ぐに響いた。
急に涙が込み上げて、七緒は泣き笑いの表情で「はい」と答えた。
そんな恋人と母親を、悠臣は嬉しそうな表情で見つめた。