愛され秘書の結婚事情
2.
恋人と母親の対面を無事に済ませて、悠臣は笑顔で台湾出張に旅立った。
一人自宅に戻った七緒は、テーブルの上に置いたカードキーとゴールドカードを前に、「さて」と頬杖を突いて声を上げた。
結局鎌倉からの帰り、悠臣から半ば強引に、マンションの鍵と彼名義のカードを預かった。
カードの利用限度額は三百万で、その範囲内なら何を買っても良い、と太っ腹な婚約者は言った。
だが当然ながら、七緒はこのカードを使うつもりはない。そもそもカード会社の規約違反だし、安易に利用して悠臣の履歴に傷がつくようなことがあってはならない。
七緒自身、ゴールドではないが自分名義のクレジットカードは持っているし、引っ越し費用くらいなら自腹で賄える。
悠臣のマンションは何度か訪問したことがあるが、あの完璧なコーディネートが施された部屋を、自分の貧相なセンスで模様替えするつもりもない。
ただ、悠臣の気持ちはとても嬉しく有難いと感じた。
貴重なクレジットカードを何のためらいもなく預け、自宅の鍵も気軽に渡す。
その行為の裏にあるのは、彼の七緒に対する絶対的な信頼感だった。
それが七緒には、何よりも嬉しかった。
だからこそ、その信頼をけして裏切ってはならない、とも思った。