愛され秘書の結婚事情

 ―― 同時刻。

 悠臣は台北市に向かう飛行機の中にいた。

 ビジネスクラスの広いシートの上で、彼は隣に座った小森室長と明日の予定について話していた。

 会話が途切れたタイミングで、小森が「常務」と声のトーンを変えた。

「午前中に何かありましたか。理由もなく笑顔でいらっしゃいますが」

「えっ、嘘」

 無骨な秘書の指摘に、悠臣は慌てて口元に手を当てた。

「僕、笑ってた? 本当に?」

「ええ。出社されてからずっと、口角が上がっています」

「うわ、マジかぁ……。参ったなぁ……」

 そうボヤきながらも、やはりその口元はだらしなく緩んだままだった。
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