愛され秘書の結婚事情

「あっ……驚かれましたか?」

 彫像のように固まって自分を凝視する悠臣に、七緒ははにかみながら笑顔を向けた。

「あの、自分では似合うメイクもファッションもわからなかったので……。ヴァリアスの笹野(ささの)店長に色々アドバイスをいただいたんです。桐矢さんが羽田に出立されたあとお店に寄ってご相談してみたら、ちょうど水曜日が休みだからって、買い物とヘアサロンにも付き添って下さって。その上、お店の商品も店員価格で譲って下さって……。おかげで出勤用の服も一通り揃えることが出来ました」

 ヴァリアスとは先日、悠臣が七緒にドレスをプレゼントしたセレクトショップの店名で、笹野とはあの押しが強い女店長の名前だった。

 生来世話好きでお節介な性格の彼女は、ダイヤの原石のような七緒が自分を磨く気になったのを見て、コーディネーター魂に火を点けられたのだった。

「…………」

「あの、……桐矢さん?」

 七緒は不安そうに悠臣に近付き、両手を前で重ねて目を伏せた。

「もしかしてお気に召しませんでしたか? これから桐矢さんの隣に立つ者として、私なりにあなたに相応しい服装とメイクを目指したつもりだったんですが……」
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