愛され秘書の結婚事情
そこでようやく、悠臣は声を出した。
「お気に召すとか、召さないとか……」
まるで呼吸困難に陥った病人のような顔つきで、彼は掠れた声で言った。
「これは、そういう次元の話じゃ、ないだろう……」
「え……」
ぐらり、と軽くよろめいて、悠臣はダイニングチェアの背凭れに手を置き自分を支えた。
「まさか君は……、その格好のまま、会社に行ったのか……」
「あ、はい。今日はこの服の上にジャケットを羽織って出社しました」
男の葛藤に気付かないまま、七緒は天真爛漫に答えた。
「結局水曜日もお休みをいただいて、先程申し上げた通り、買い物と引っ越しをしました。それで木曜日と今日、出社致しました」
「その髪型と、メイクと、ファッションで……?」
「はい。髪はいつも通り後ろで纏めましたが、メイクも服も笹野店長のアドバイスに従って、自分なりに頑張ってみました」
「それで、皆の反応は……?」
ついに頭痛までしてきて、悠臣は額に手を当てながら訊ねた。
七緒はまた笑顔で答えた。
「はい。それが自分でも驚くほど、皆さんからお褒めの言葉をいただいて。普段挨拶だけの社長や専務からも、わざわざ立ち止まってお声を掛けていただきました」