愛され秘書の結婚事情

「……男性社員は?」

「え?」

「男性社員から何か言われなかった?」

「性別問わず、ほとんどの方から声を掛けていただきましたけど……。あ、そう言えば、やたら電話番号を聞かれました。木曜日だけで十人くらいの方に……」

「まさか、教えたのっ!」

 顔色を変えた悠臣に、七緒は「はい」と頷いた。

「特に教えない理由はありませんし……」

「ああ……そうだね」

「そのせいか、今日は沢山のお誘いを受けました。お食事とか飲み会とか……ちょっと意外に思っています」

「全然意外じゃないよ。想定内だよ……」

 リアクションする気力も失くした悠臣は、椅子の背凭れに乗せた腕にぐったりと顔を伏せた。

「桐矢さん。あの……大丈夫ですか。もしかして疲れてらっしゃいますか」

「うん。とりあえず、お風呂を貰うよ」

 そう言って、彼はふらふらした足取りで脱衣所に向かった。

 その力ない背中を、七緒は心配そうに見送った。
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