愛され秘書の結婚事情
4.
浴室に直行した悠臣は、脱衣籠の中に着ていたものを全て放り込み、湯の張られた浴槽に首まで浸かった。
「恐れていたことが、現実になったな……」
一人きりになり、彼はようやく本音を口にした。
さきほどの見事な変身を遂げた彼女の美しさに、しかし口から零れ出たのは感嘆の吐息でなく、長く重苦しい溜め息だった。
「ああもう本当に……参る」
そうボヤいて、彼は両手で頭を抱えた。
七緒は元々整った顔立ちで上品な所作をする、内面外見ともに美しい女性だ。
飾り気なく冷たい物言いをするせいで、これまで彼女の美しさに目を留める者は少なかっただろうが、今回の華麗な変身で、きっと多くの男達が目の色を変えたに違いない。
本社の男性社員だけでない、社外の男も充分ライバルになり得る。その中にはきっと、悠臣より若く、社会的地位もあり、魅力的な者だっているだろう。
そんな男が彼女に本気で迫ったら……さすがの七緒も心が動くのではないだろうか。