愛され秘書の結婚事情

「はぁあ……」

 悲嘆と諦観と、葛藤と焦燥と。

 とにかく一つに括れないネガティブな感情がどっと押し寄せ、悠臣は泣きたい気分で長い長い溜め息をついた。

 改めて、自分はなんて無謀な賭けに出たんだ、と暗澹たる気持ちになってくる。

 恋愛がしたいなら、そこらの手近な女で手を打つべきだ。

 それが出来ないのなら、身の程を弁えて大人しくしておくべきだった。

 若い頃の彼は怖いもの知らずだった。

 皆が振り返るような美貌と、知性と、体力と、自分は何でも出来る、何にでもなれる、という自信と自負があった。

 狭い世界で一生を終えたくなくて、アメフトの本場であるアメリカを留学先に選んだ。

 望み通り、彼は大学で女王のように君臨する美女の心を射止め、彼女の夫となり、そして彼女の父親の後ろ盾も得て大国アメリカでの成功者となった。

 だがその後は七緒にも語った通り、転落の一途を辿るだけの虚しく悲しい結末を迎えた。
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