愛され秘書の結婚事情
寝室のクローゼットに行き、以前に教わった場所を開けて、そこからブランド物の下着とシルクのパジャマを取り出す。
秘書の経験が長い七緒は、男性経験はないものの、こういった物を手にすることにためらいはなかった。
以前も悠臣の出張準備を手伝ったことがあるし、悠臣の秘書になる前は、泥酔した上司の吐いた汚物を片付けたりもした。
彼女にとって「誰かの世話をすること」は即座に「感情を伴わない仕事」に変わる。
だから今回も七緒の方には、何のためらいも迷いもなかった。
「籠の中に着替えを置いておきますね。お風呂を上がってすぐに、食事を召し上がりますか」
「ああ、ありがとう。それと、すまない。今日は食事はいいよ」
浴室の中から、悠臣の控えめな声が返って来た。
「機内で軽食を食べてね、あまりお腹が空いていないんだ」
「そうですか……」
春野菜のクリームシチューとポークソテーを用意していた七緒は、少し落胆して答えた。
「もし君がまだ食事をしていないのなら、もう今から食べて。僕はもう少ししたら出るから。あと、ケーキがあっただろう」
「はい。冷蔵庫に入れました」
「食事の後で一緒に食べよう。ワインセラーにシャンパンもあるから、それで乾杯して」
「はい。わかりました」
思った通り、彼が自分のためにケーキを用意してくれていたと知り、七緒は自然と微笑んでいた。
そして彼女は弾む足取りで、脱衣所を出て行った。