愛され秘書の結婚事情

「そんな高級なお酒……もったいないです」

「何を言うの」

 さっさとボトルの栓を抜いて、悠臣はグラスにその金色の液体を注いだ。

「どうせ頂き物なんだし。お祝い事にはぴったりのお酒でしょう。今日開けなくていつ開けるの」

 繊細なデザインのフルートグラスを、悠臣は笑顔で七緒に向け差し出した。

 七緒はそれを、ためらいつつも両手で受け取った。

「イチゴのケーキとシャンパンの辛口は相性がいいんだよ。はい、じゃあ乾杯」

 悠臣が自分のグラスを七緒のグラスに近付け、二つのグラスがチンと高い音を立てた。

「……いただきます」

 開けてしまったものは仕方がないと、七緒はグラスに口をつけた。

 細やかな炭酸が口内で弾け、芳醇な旨味と鼻に抜けるような香りが爽やかな余韻を残し、七緒はほぅ、と感嘆の息を洩らした。

「すごい、美味しい……」

「そう。良かった」

 しかしそこで、彼女は気付いた。

「あ、桐矢さん。お酒は飲まないんじゃ……」

「うん。だけど今日は特別だから」

 悠臣は一口だけワインを口にし、すぐにそれをテーブルに置いた。

 七緒はそれを、複雑な表情で見つめた。
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