愛され秘書の結婚事情
「やっぱりこんな高級なお酒、私のためだけに開けたのはもったいなかったですね……」
「ずっとセラーの中で放置しておく方がもったいないよ。それに、僕は知ってるんだよ。君が意外に酒豪だってこと」
「えっ!」
七緒は仰天して、繕うことも出来ず慌てた顔をした。
「こんな小さい瓶のワインなんて、一人で空に出来るでしょ。三年前の懇親会で、ザル自慢してた営業部の係長と日本酒の飲み比べ勝負で勝ったらしいじゃない」
「どうしてそれを……!」と、七緒は悲鳴のように叫んだ。
三年前の春。
たまたま会場の席で、七緒達秘書室の隣が営業部で。
そこの係長が、酒が弱いやつはダメだ、使えないと、前時代的な高説を垂れていたのに腹が立ち、おまけにアルコールがダメだという新入社員の男子に無理強いしていたのを見かねて、「実は私も結構イケル口なんですよ」と七緒が助け舟を出した。
「酒の強さなら、私の方が上だと思いますよ」という七緒のあからさまな挑発に、その営業部係長は簡単に乗って来た。
そして彼は、グラス五杯目で目を回して倒れた。
七緒は彼が残した分も飲み干し、それから彼女のあだ名は「アラ●ちゃん」から「酒豪ちゃん」に変わった。