愛され秘書の結婚事情

「お、お待たせ、しました……」

 両手を前で交差させ、おどおどとした表情で現れた七緒を見て、悠臣は言葉を失くした。

「いかがですか、桐矢様。想像以上の大変身で、驚かれたでしょう?」

 びくついている七緒に比べ、渾身の作の出来に満足げな女店長が、店中に響くような声で悠臣に声を掛けた。

 その声で我に返り、悠臣は「うん。確かに、想像以上だ……」と答えた。

「世話になったね。ありがとう」

 店長に礼を言い、悠臣はうつむく七緒の手を取った。

「それじゃあディナーに出掛けようか。七緒さん」

「ふぁっい!?」

 慣れない場所、慣れない格好、加えて上司に慣れない呼び方をされ、完全にテンパッた七緒は、素っ頓狂な返事をして顔を上げた。

 途端に、楽しげな表情の悠臣と目が合い、彼女はまた慌てて顔をうつむかせた。
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