愛され秘書の結婚事情

「おいで」

 悠臣に手を引かれ、七緒は彼と一緒に寝室に向かった。

 丁寧にベッドメイキングされたベッドの前に立ち、悠臣はまた彼女と正面から向かい合った。

「僕が初めての相手で、後悔しない?」

「するわけがありません」

 迷いのない声で七緒は答えた。

「桐矢さんが……悠臣さんが、いいです。今もこの先も、私はあなた以外の誰にも抱かれたくありません」

「未来は不確かなものだよ」

「いいえ」

 弱気な男の言葉を、七緒は強い声で否定した。

「私は自分を知っています。私に女としての感情を、誰かに愛される喜びを教えて下さったのは、悠臣さんだけです。こんな気持ち、一生持つことはないと思っていました。だから私を変えたあなただけが、私にとって唯一の男性なんです」

「七緒……。僕はその言葉を信じるよ。でも信じてしまったらもう、僕は止まらないと思う。君を愛することを、止められなくなると思う」

 自動点灯した仄かな明かりの下、二人はただ互いの目だけを見て話した。

 七緒はゆったりと微笑んだ。

「止めないで下さい。私ももう、止まりません」

「七緒……愛している。君を心から、愛してる……」

 悠臣の心の底から絞り出したような言葉に、七緒は嬉しそうに微笑んだ。

「はい。私も、お慕いしています。愛しています、悠臣さん……」
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