愛され秘書の結婚事情
交わすべき言葉を全て交わし、伝えるべき心を全て伝え合い、必要な通過儀礼を終えた二人は、迷うことなく互いを抱き締めた。
熱のこもった瞳で見つめ合い、焦げそうな吐息を重ね、悠臣は初めて女性に触れた少年のように、恐れと喜びの狭間で心を震わせた。
七緒もまた、別の震えを感じていた。
初めて愛する男を得て、初めてその男に抱かれるのだ。
彼女の全身は期待に慄(おのの)き、喜びに心が震えた。
そんな彼女の思いを感じ取り、悠臣はこれまでになく慎重に事を進めた。
初めはただ肌を触れ合わせるだけのスキンシップで、彼女の緊張にこわばった体をほぐし。
丁寧で優しい愛撫で感度を高めながら、徐々にその濃度を増していく。
「あっ……はぁ……」
彼の技巧的な動きに導かれ、彼女はいつしか理性の衣を脱ぎ、淫らに全身をくねらせた。
「悠臣さん……、悠臣さん……」
全身にキスの愛撫を受けながら、七緒は無意識に愛しい男の名を呼んだ。
その声すら、彼にはたまらない誘惑の響きを伴っていた。
初めて女の素顔をさらした七緒は、この上なく美しく愛らしく、蠱惑的な魅力を振り撒いて悠臣を翻弄した。
けれど我を忘れたのは七緒も同様だった。
初めて経験した男性は、彼女の想像を軽々と越えていった。
甘い香りを放つ桜色の雲の上で、天上の音楽を聴きながら極上の夢を見ているような。
愛する男の腕の中で、七緒はそんな錯覚さえ覚えた。
幸福な光に包まれて、彼女はこうして三十歳の誕生日を終えた。