愛され秘書の結婚事情
第五章「ライバル登場」
1.
土曜日の朝。
気怠い体のまま、七緒はゆっくり目を開けた。
広い寝室のベッドには、彼女しかいなかった。
南に面した窓の方を向くと、カーテンの隙間から白い陽光が差し込んで来ていた。
陽の高さから、これがいつも目を覚ます時間ではないと察した彼女は、首を捻って時計を探した。
ダブルベッドのヘッドボードは革張りで、アメリカ暮らしの長かった悠臣らしく、大きなクッションが重ねて置いてあった。
他に時計のありそうな場所はと、七緒は部屋の隅のオーディオセットを見た。そこのCDプレイヤーの窓に、デジタル時計が表示されていた。
裸眼で0.4という視力の彼女は、裸の体にシーツを巻きつけ、プレイヤーに目を近付けた。
そしてそこに並んだ数字を見て、「えっ」と声を上げた。
そこには確かに、「10:35」とあった。
「嘘。もう十時過ぎ?」
七緒が呆然としていると、いきなり寝室のドアが開き、普段着に着替えた悠臣が入って来た。
七緒は「きゃあ!」と悲鳴を上げ、シーツを巻きつけた体でベッドにダイブするように戻った。
意外な光景に目を丸くした悠臣はすぐに楽しげな笑顔になり、「おはよう」と彼女に挨拶した。
「……おはようございます」
掛け布団の隙間から目だけ覗かせ、七緒は赤い顔で挨拶を返した。