愛され秘書の結婚事情
「良く眠れた? お姫様」
恋人の額にキスを落とし、悠臣は明るい笑顔で言った。
「はい……。信じられないほど、寝ました……。申し訳ありません。同居初日に寝坊なんて……恥ずかしい」
自己嫌悪に目を伏せる七緒に、しかし悠臣はあくまで優しく、「気にしないで」と言った。
「そんなことより、体はどう? 辛くない?」
「はい。大丈夫です……」
「本当に? 痛みは?」
「……ちょっと違和感がありますけど、痛みはありません。あ、でも、少し腰の辺りがだるいかも……」
「やっぱり。まあ初めてなんだから、当然だね」
悠臣は短く嘆息し、優しく彼女の頭を撫でた。
「今日は一日、ここでゆっくり体を休めて。食事の前にお風呂に入るといい。今、湯を張っているところだから」
「でも……」
「ダメダメ。これは上司命令だよ」
「どうして上司命令なんですか」
不満気な七緒を笑顔で見つめ、「こう言うと、君が渋々でも言うことを聞いてくれるから」と悠臣は言った。
「そんなの横暴です」
「なんと言ってくれてもいいよ。だけど入浴とトイレ以外、僕は今日、君をこの部屋から出すつもりはないからね」
「でも食事は……」
「ルームサービスを頼むよ。君がお風呂から上がったら食べられるよう、フロントに注文しておくよ。時間的にブランチになるから、サンドイッチとフルーツジュース、あとはサラダとスープでもあればいいかな。飲み物はカフェオレ?」
「でもそんな……」
「ん? 何なら朝からフレンチのコースにしようか?」
「……サンドイッチでお願いします」
溜め息と同時に答え、七緒は「昨日の残ったシチューはどうしますか」と言った。
「それは夕食にしよう。白米を足してリゾットにしたらどうかな。ケーキはおやつに食べよう」
その意外な返事に驚いて、七緒は布団から少しだけ顔を出した。
「リゾット……悠臣さんが作るんですか」
「そうだよ。おかしいかい?」
「いえ。前にうちでフレンチトーストを作られた時も、すごく手際が良かったですし……。料理がお得意なんですね」
「簡単なメニューだけだけどね」
そう言って悠臣は笑った。