愛され秘書の結婚事情

 今日の彼は、ざっくりと目の粗い綿麻の青いセーターにカットソー、ジーンズというラフなファッションで、だがそれが若々しい雰囲気の彼に良く似合い、七緒は眩しい思いで自分の恋人を見つめた。

(私、この人と昨日、愛し合ったんだ。ここで……)

 急に昨晩の生々しい記憶が蘇り、彼女はボッと顔に火を点けた。

 いきなり顔を真っ赤に染めた七緒を見て、悠臣は「ん?」と首を傾げた。

「なんだか顔が赤いね。まさか熱があるの?」

 そう言って当然のように腕を伸ばし、彼は彼女の額に手を当てた。

 彼の手はひんやりとして、その心地よい感触に七緒は思わず目を細めた。

「熱はないみたいだ」

 悠臣はすぐに手を離し、ベッドに下ろしていた腰を上げた。

「あ……」

 遠ざかりかけたその姿を見て、七緒は名残惜しげに声を上げた。

「うん?」

 一旦背を向けた彼が振り向き、七緒はホッとしたように表情を緩めた。

 そして勇気を振り絞って、言った。

「あの、悠臣さん……」

「はい」

「差し支えなければ、その……」

「うん? 何か欲しいものでもある?」

「いえその……出来ればもう少しの間ここにいて下さると、大変有難いのですが……」

「え」

 驚いた悠臣は、恥ずかしそうな七緒の顔を見て、ふっと小さな笑みを浮かべた。

「そうか」

 悠臣はベッドに乗ると片手を枕に横たわり、彼女の方を向いた。

「これでどうかな」

 そう言って彼は、こちらを見つめる彼女の頬に触れた。

 彼の指先に優しく頬を撫でられて、七緒は嬉しそうに目を細めた。

「……はい。ありがとうございます」
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