愛され秘書の結婚事情

 そのまま自分をエスコートして店を出ようとする悠臣に、七緒は「あの、こちらのお会計は……」と小声で訊ねた。

「ああ。もう済ませてあるよ」

「えっ……」

「言ったでしょう。今日は僕の奢りだって。そのドレス一式は、僕からの誕生日プレゼントです」

「え、でもあのこれ、常務にプレゼントしていただくには、あまりに高級なお品ですけど……」

「そう? 僕としては充分に予算内だけど」

「そ、そうですか……」

 それ以上反論も出来ず、七緒はまた目を伏せた。

 そんな彼女の顎に、悠臣は軽く指先をかけて上向かせた。

「じょっ、常務?」

 至近距離で見つめ合い、悠臣は自分より濃く黒い、良く磨かれた宝石のような瞳を見つめた。

 七緒もまた、悠臣の色素の薄い、赤茶色の瞳を見上げた。
< 19 / 299 >

この作品をシェア

pagetop