愛され秘書の結婚事情
「ああ、だってねぇ……」
悠臣はまた憂鬱な顔つきに戻り、「君に秘書を続けさせるのに、伯父さんに条件をつけられちゃって」と言った。
「ひどいんだよ、あの人。僕が君にべた惚れなのを知ってて、勤務中はハグもキスも禁止だって言うんだから!」
「え……」
「たとえこの部屋で二人きりの時でも、イチャつくの禁止、キスもハグも禁止、手も握っちゃダメって言うんだよ! こんな話ってある!? はっきり言って拷問でしょ! 僕に死ねって言ってるようなものでしょ!!!!」
「…………」
悠臣は至って真面目に、真剣な顔で訴えたが、七緒は呆れ果てて声も出なかった。
「本当に信じられないよ。鬼だね、あの人は。正真正銘のサディストだよ」
「……常務。わたくしは、会長の仰っていることは、至極真っ当なご意見だと思いますが……」
「え!」
仰天する悠臣を、七緒は冷静な秘書の顔で見つめた。
「わざわざ会長がご忠告下さらなくとも、当然わたくしも、職場で常務と不必要なふれあいをするつもりはございません」
「不必要なふれあいって……僕達結婚するのに!? 夫婦になるのに!?」
「夫婦になるからこそ、公私のけじめを持つことは大切だと思います」
男の泣き言をぴしゃりと跳ね除け、七緒はそこでニッコリと笑った。
「何はともあれ、わたくし共の結婚に会長がご同意下さったと聞き、心底安堵致しました。憂いがなくなったところで、常務。今日のご予定ですが……」