愛され秘書の結婚事情
3.
「って言ったんですよ、彼女! 憂いがなくなったって! 社内でのスキンシップを禁止されたのに! どう思いますか、先生!」
憤懣やる方ない、という表情で悠臣は訴えた。
帰宅準備を始めていた乙江は、医務室に来るなり一人でプリプリ怒り始めた常務を見つめ、ハァと小さく嘆息した。
「結構なことじゃないですか。職場を合コン会場と勘違いしている不心得者も多い中、あなたのフィアンセはとてもしっかりしてらっしゃる。彼女を誇りに思うべきですね」
「そうです。彼女は素晴らしい!」
乙江の意見に同意しながら、悠臣は「だけど僕は寂しいんです!」と叫んだ。
「たとえ伯父の意見が正しかったとしても、彼女の方もほんのちょっとくらい、残念そうな態度を取ってくれてもいいじゃありませんか……!」
「彼女は秘書ですからね。勤務中に私情を表に出すのはよろしくないでしょう」
「部屋には僕と彼女しかいませんでしたよ!」
「だとしてもあなたは上司で、ここは会社です。佐々田さんの態度が職業人としての正解でしょう」
「……はぁ」
人生の先輩に諭されて、悠臣は憂い顔で肩を落とした。
「やっぱり、婚約に浮かれているのも、付き合えて舞い上がっているのも、僕一人なんでしょうかね。今日一日ずっと一緒にいたけれど、彼女はプロポーズ前と何ら変わりありませんでした。軽くちょっかいを出したら、ダメ生徒を見る教師のような目で注意されたし……」