愛され秘書の結婚事情

「むしろ会長の作った新ルールは、お二人にとって良いスパイスになったんじゃないですかね」

「スパイス~?」

「そうです」

 一五二センチと小柄な乙江は、不審顔の悠臣の腕を掴み強引に椅子から立たせ、自分より三〇センチ以上高い男の背中をぐいぐい押した。

「さあ、もう出てって下さい。私は帰るんですから」

「ちょっと先生。まだ話は終わってないですよ!」

「私の話は終わりました。あなたもさっさとお帰りなさい。彼女が家で待っているんでしょう」

「……そうなんですけど。帰ってまたあの事務的な態度を取られたらと思うと、帰るのが怖くて……」

「あなた、馬鹿ですか?」

 乙江は心底見下したような目で、悠臣を見上げた。

「そんなお馬鹿さんには、“ギャップ萌え”という言葉を教えて差し上げます」

「え、なんですって?」

 無理やり廊下に押し出した悠臣に、乙江はニッコリと笑いかけ、最後に言った。

「帰ったらわかります」

 そしてドアは一方的に閉じられた。
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