愛され秘書の結婚事情

 そこまで考えて、七緒は主が不在の机を見た。

(悠臣さん、きっと今日も遅いんだろうな……)

 長く一人暮らしをしてきた七緒は、ここに来て初めて、「一人が寂しい」と感じるようになっていた。

「……はぁ」

 たった一度きり、同居人の帰宅が深夜になったと言うだけで、一人で夕食を取ったというだけで、心がもう弱音を吐いている。

 寂しくてたまらないと、そう言っている。

 自分でも気付かないうちに七緒は、すっかりこの“初めての本気の恋”にどっぷりと嵌っていた。

 それがいいことなのか悪いことなのかは不明だが、恋を知ったことで彼女が大きく変化したことは、疑いようのない事実だった。

 単にファッションやメイクが変わっただけではなく、物の見方も価値観も、歩き方や喋り方、表情までもが、丸みを帯びて柔らかで、女性的なたおやかさを感じさせるようになった。
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