愛され秘書の結婚事情
「会いにって……」
困惑顔になった七緒はそこで、ハッと周囲の視線に気付き、辺りを見回した。
受付の二人のみならず、暇な社員たちが複数名、事の成り行きを見守るように一階フロアに集まっていた。
七緒は慌てて受付から離れた場所に央基を引っ張って行き、「今すぐは無理! あと一時間したら仕事終わるから、それまでどこかで時間潰して待ってて!」と小声で告げた。
央基は面倒くさそうな顔をしたが、それでも「わかったよ。向かいのカフェにいる。終わったら来い」と言った。
男の相変わらずの命令口調にしかめ面になりながらも、七緒は「わかった」と短く答えた。
「絶対来いよ。逃げるなよ」
喋っているうちに、やはりこれはあの七緒だ、と悟った彼は、いつもの調子を取り戻して言った。
七緒もいつもの投げやりな態度で、「はいはい。わかったから、早く行って」と男を片手で追いやった。