愛され秘書の結婚事情
だが七緒が姿を消してからも噂好きの四名は残り、そのうちの一人が受付嬢から、ちゃっかり男の名前も仕入れて来た。
「ねえねえ、さっきのイケメン君の名前、つかがわひろきっていうんだって!」
「わ、名前までイケメンぽい」
「ていうか、イニシャルがHじゃん! 私、秘書室の子から聞いたんだけど。佐々田さんがしてる婚約指輪って、裏に英語で“HからNへ 愛をこめて”って彫ってあるんだって!」
「ええっ! じゃあやっぱり、あの人が佐々田さんの相手!?」
「そうだよ、間違いないよ! だってメチャメチャ親密だったじゃない!」
「うわぁ、あのイケメン君が彼氏なら、うちの社の男連中じゃ歯が立たないわ」
「ねー。唯一対抗出来るのは桐矢常務くらいだけど、常務はちょっと年いってるからねぇ……」
「えー、私は桐矢常務の方がいいなぁ。あの彼はちょっと冷たそうな感じだし……」
「でもクールな彼が自分にだけ甘いって言うのがいいんじゃない!」
「確かに~。おまけにあの彼、若いのにスーツはチェスター・バリーだったよ! あそこのスーツってめっちゃ高いのに!」
「じゃあ収入の方もうちの幹部クラスってこと!? 最強じゃん!」
女が三人寄れば姦しい、と書くが、それが四人であれば敵無しだ。
四人が始めた憶測のみの噂は、すごい速さで社内を駆け巡った。
そして七緒が退社する時間にはもう、リッチでイケメンなツカガワ青年との婚約は、決定事項として社員の間に広まってしまった。