愛され秘書の結婚事情
「そうだね。えーと、利根川先生の定年退職のお祝いに集まったのが四年前だから……それ以来?」
中学の恩師の名前を出して、七緒は首をかしげた。
前はなんとも思わなかったその仕草も、今の彼女がするとドキリとするほど色っぽく、央基は動揺を隠すように自分のカップを手に取った。
「そうだな。ああいう特別な用がない限り、お前は帰省しないもんな」
皮肉を言ってカップに口をつけた央基は、中身がないことに気付いてチッと舌打ちした。
「おい。カフェオレ来たら、俺のコーヒーも頼んでくれ」
「自分で頼みなさいよ」
「面倒くさいだろ」
「私に頼むのと店員に頼むのとどっちが面倒よ」
相変わらずの幼馴染の性格に呆れながら、それでも七緒は店員が近くに来たタイミングで、「すみません。コーヒーのお代わりを下さい」と声を掛けた。
「あれから四年経つのに、ほんっと変わらないんだから」
「お前も変わったのは見た目だけだな。中身は相変わらず口うるさい姑みたいだ」
「姑持ったことないでしょ」
そう言い返して七緒はふと、「え。もしかして央基、結婚したの?」と言った。
「はぁ?」
端正な顔を憎たらしく歪め、央基は大きく片眉を上げた。