愛され秘書の結婚事情
「その見合い相手、誰か知ってるか」
「まさか……」
「そのまさかだ」
「あんた、なの」
「そうだ」
そこにお代わりが到着し、央基はカップを手に取った。
「俺がお前の、見合い相手だ」
「……信じられない」
「なんで」
「だって、だって……。私とあんたは一度、別れたじゃない……」
「そうだな。あれを“付き合った”と言っていいのかわかんねぇけどな」
「……手、繋いだし。デートしたし。キスも、したでしょ」
七緒が顔を赤らめて言うと、央基はつまらなそうに唇を尖らせた。
「手を繋いだのはたったの一回で。デートも夏祭りと映画とで、二回。キスもかる~いのを二回。あんなの、今時の中坊の方がよほど進んでる」
「……だって。あの頃、私、忙しかったし……」
「あー、そうだな。お前は勉強に夢中で、大学を出たら東京で働くつもりで、家業を継ぐ予定の俺のことは、大学卒業と同時に捨てるつもりだったんだよな」
「ちょっ、人聞きの悪いこと言わないでよっ!」
思わず声を荒げた七緒は、ハッとして周囲を見回した。
幸い彼らの会話に聞き耳を立てている者などいなかったが、ここは会社と目と鼻の先にあるカフェで、いつ社内の者と鉢合わせするかわからない。