愛され秘書の結婚事情
そこにようやくタクシーが到着した。
「ほら、タクシー来たよ」
そっぽを向いた男の袖を掴んで、七緒は強引に車の方に引っ張った。
「ちょ、お前、乱暴にするなよ! このスーツ幾らすると思ってるんだっ」
慌てる央基に七緒は、「チェスター・バリーでしょ。二〇万くらい?」と言った。
「三〇万だよっ!」
腕を振って言い返し、央基は車に乗ろうとした彼女の肩をぐいと掴んだ。
「レディファーストだ。俺が先に乗る」
七緒は驚き、先に後部座席に座った男の顔をじっと見つめた。
「なんだよ、乗れよ」
「う、うん……」
ぎこちない態度で、七緒は央基の隣に座った。
店の名前と住所を告げると、タクシーはすぐに走り出した。
そして二人を乗せた車が遠ざかるのを反対側の歩道から、悠臣が呆然とした表情で見つめていた。