愛され秘書の結婚事情
「こんな時間までどこにいたの? 僕が会社に戻った時にはもう、君は社を出た後だったけど」
七緒はうつむいたまま、また「ごめんなさい」と詫びた。
「急に地元の友達が会いに来て……。その人と食事をしていました。てっきり今日もあなたはお帰りが遅くなると思って……。本当にごめんなさい」
「そんなに謝る必要はないよ」
悠臣は表情を変えずに言った。
「その地元のお友達は、何の用で東京に来たの。観光か何か?」
「……そんなところです」
七緒は答えを濁した。
だが真相は違った。
央基ははっきりと、「お前と話をするために来た」と言った。
だが央基に聞いた話を今、大きな商談を抱えている悠臣に聞かせることは憚られた。
何より七緒にとっても今日の話の内容は、身内の恥でしかないものだった。
到底、愛する婚約者に聞かせたい話題ではない。出来ることなら、一生隠しておきたいような話だ。
(でも近い内にちゃんと、彼にも話さないと……)
それでもし愛想を尽かされたとしても、仕方のないことだと七緒は思った。