愛され秘書の結婚事情

 そんな彼女の心情も知らず、悠臣は重ねて質問をした。

「そのお友達はどういう人なの。学校の同級生とか?」

「えっ? あ……」

 七緒は戸口に立ち尽くしたまま、足元の絨毯の目を見て答えた。

「幼馴染です……。家同士が祖父の代からの付き合いで、生まれた時から知り合いっていうか……」

「そう。どんな人?」

「えっ……」

 七緒はそこで一瞬、顔を上げた。

 その頬がリビングの白い明かりに照らされて、朱に染まるのを悠臣は見た。

「ええと……、口が悪くて横柄で、鼻持ちならない嫌なヤツです……」

 その答えに口の端を歪め、悠臣は少しだけ笑った。

「そんな性格の人とわざわざ会って、食事までしたの」

「……色々と積もる話があって」

 だんだんと息苦しさを覚え、七緒はそこで「あの」と声を上げた。

「悠臣さん。私、今からお風呂に入って来ていいですか。何だかちょっと汗を掻いちゃって、気持ち悪いんです」

「……構わないよ」

 相手の了承を得て、七緒はあからさまにホッとした顔を見せた。

「じゃあ入って来ます。あ、悠臣さんは先にお休みになっていて下さい」

 表情と声のトーンを一段階上げて、七緒はいそいそと脱衣所に向かった。
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