愛され秘書の結婚事情
だがすぐに彼は、その不吉な予感を打ち消した。
(いや、彼女はそんな不誠実な女ではない)
彼女が自分に向けた愛情は本物だ。
初めて本気で人を好きになった、と彼女は言った。その言葉も本物だ。
それほど愛した男がいるのに、いきなり他の男とデートに出掛けるなど、あまりに彼女らしくない行動だ。
だから今日、男と一緒にいたのは、何かのっぴきならない大事な話があって、だからまだ帰って来られないのだ。
そう思った。
そして彼のこの予想は正しかった。
正しかったが、帰宅した七緒のぎこちない態度が、彼に勘違いをさせた。
明らかに何かを隠している、自分に後ろめたさを感じている。
そんな彼女の表情と態度が、悠臣の消えかけた不安を大きく煽り、その胸に不信の火をつけた。
七緒が逃げるように寝室を出て行ったあと、再びベッドに横になりながらも、彼は暗い天井をじっと見つめていた。
眠気など到底、やって来そうになかった。