愛され秘書の結婚事情
3.
長めの入浴を終え寝支度を整えた七緒は、足音をしのばせて寝室に戻った。
室内では常夜灯だけが淡いオレンジの光を灯し、物音一つしなかった。
(悠臣さん……もう寝ちゃったかな……)
そぉっと男の顔を覗き込み、その目が閉じられているのを確認する。
ホッとするような残念なような複雑な気持ちで、七緒は空いた左側から布団の中に入った。
隠し事のある後ろめたさから、起きている彼と対峙するのは辛かったが、触れ合えないことは寂しかった。
相手を起こさないように気をつけながら、七緒はゆっくり手を伸ばし、布団の外にある悠臣の手に触れた。
彼女のこの行動に、悠臣は驚いた。
当然寝たふりをしていた彼は、彼女の方から手を伸ばし、自分に触れて来たことが意外だった。
果たして、外で浮気をして来たばかりの女性が、寝ている恋人の体に触れたがるものだろうか。