愛され秘書の結婚事情

 七緒は遠慮がちに悠臣の右手に触れ、相手が握り返して来たことに勇気をもらって、その腕に寄り添うように体を寄せた。

 それでますます、悠臣は混乱した。

 明らかに七緒の行動は、まだ自分のことが好きだと、そう訴えている。

 我慢出来ず、悠臣は自分も体の向きを変えて、彼女の体を抱き締めた。

 それを、男が夢の中で無意識にとった行動と勘違いし、七緒は嬉しそうにその腕の中に収まり、恋人の首筋に額を擦り寄せた。

(おかしい……。絶対におかしい……)

 このまま素知らぬふりを続けるつもりでいた悠臣だったが、ここで我慢の限界を迎えた。

「七緒」

 しっかりした声で、彼は彼女の名前を呼んだ。

「えっ!」

 驚いた七緒はとっさに身を起こし、相手の目がぱっちり開いているのを見て、また驚いた。

「悠臣さん……。寝ていたんじゃないんですか……」

「……うん、起きてた」

「でも明日は朝から視察団の方々と……」

「その予定は失くなった。急な仕事が入ったとかで、彼らは今夜のフライトで日本を発ったよ」

「そう……ですか……」
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