愛され秘書の結婚事情
午前八時。
和やかな朝食を終え、後片付けを済ませた七緒は、ベッドサイドに置いていた携帯電話の存在を思い出し、それを手に取った。
予想通り、央基からメールが届いていた。
『彼氏とは話したか。これからどうするか決まったら、また連絡くれ』
自然と重い息を吐き、七緒はその短く素っ気ない電信を見つめた。
現在中四国、九州に系列ホテルや商業施設を展開している塚川グループは、近々関東進出も計画しているそうで、央基は今回、上京ついでにその視察も行うつもりらしい。
昨日彼は若者に人気のRホテルに泊まり、今夜はPホテル、明日はBホテルにと、毎日違うホテルを利用するらしい。
昨日の会話で「金曜まで東京にいる」と言っていたことを思い出し、七緒は憂鬱な気分でメール画面を閉じた。
(私が悠臣さんと別れないって言ったら、きっとメチャメチャ責められるんだろうなぁ……)
冷たい印象を抱かれがちな七緒は、しかし、言葉で他人を攻撃することは苦手だった。
素っ気ない物言いはしても、誰かを貶したり批判したりと、そういう類の言葉は滅多に口にしない。