愛され秘書の結婚事情
「「えっ!」」
そこで姉弟の声が重なった。
「ええ。ですがあの者はあくまで、ご両親にご安心いただくための報告係ですから。それにあれは僕の独断で行ったことで、七緒さんは何も聞かされていません」
「分かっています。だがその時に私も妻も、結婚には反対していないとお伝えしたはずだ。今回なぜわざわざ、娘と一緒にうちへ来たのか、その目的をお伺いしているのです」
「七緒さんのためです」
悠臣は七緒の両親の顔を見つめ、はっきりと答えた。
「結婚のお許しをいただくだけでは、彼女の憂いは消えません。昨日、塚川央基さんが彼女に会いに来ました。そして彼は、実家が困窮しているのに一人だけ東京で自由にするのは、あまりに身勝手だと七緒さんを責めました」
「だってホントに身勝手だし」
そこでまた竜巳が横やりを入れたが、悠臣の視線を感じて彼はすぐに口を閉じた。
「このままでは七緒さんは、晴れの日を気持ちよく迎えることが出来ません。それでは意味がない。彼女が何の憂いもなく幸福に暮らすこと、それが私の望みです」
いつもののんびりした笑顔と喋り方を封印し、悠臣は商談相手を説得するビジネスマンの顔をして言った。
「ですから今日、今ここで、ご両親には全てを明らかにしていただきたいのです」