愛され秘書の結婚事情
「央基君との縁談を進めたのは、どういう理由ですか」
「それは、そうすればきっと、七緒もこちらに帰ってきやすいかと、私が勝手にしたことで……」
路子は沈鬱に顔をうつむかせ、ポツポツと事情を語った。
「去年の誕生日に七緒が電話で、東京に来て恋人の一人も出来なかったと……。来年の誕生日が来たら実家に戻る約束だけど、きっとそっちに戻っても、誰も私のお婿さんになんてなりたがらないよ、って……」
路子はそこで涙ぐみ、「何だか私、娘がとても不憫になってしまって……」とハンカチで目頭を拭った。
「それで私、主人に頼んだんです。七緒が戻ったら、央基君とお見合いさせてやってくれないかと。主人は最初、まだあと一年あるから先走るのはどうかと言っていたんですが、私が、その一年の間に、央基君の方に相手が出来たらどうするのって、急かしてしまって……。ですから七緒が東京でお相手を見つけたと聞いて、自分が一人でお詫びに行くべきだと思ったんです。でもそれで余計に塚川さんの怒りを買うことになってしまって……」
「お前一人の責任じゃない」
直輝は厳しい表情のまま妻をフォローした。
そんな二人を見つめ、七緒はひたすら呆然とするしか出来なかった。
自分が冗談のつもりで言った言葉を、母親がそこまで深刻に受け止めたことに驚き、それと同時に申し訳なさも感じた。
自分が思う以上に、親は自分を心配しているのだ。その事実に、今更ながら気付いた。