愛され秘書の結婚事情
「おかしいと思ったんです」
悠臣が静かな声で言った。
「娘を家に縛りつけたい親の行動にしては、佐々田さんご夫婦は放任すぎると。弟さんの事件のことも、ご主人が議員辞職したことも伝えず、盆正月の帰省も強要しない。三十歳の誕生日を迎える前に、いつ帰るのか、といった催促もない。お母さんが理解があることは七緒さんから聞いていましたが、お父さんの方も実は、娘が自由に生きることを望んでいるのではないか、そう思ったんです」
「私との会話だけで、そこまで推理したんですか?」
「いや、もう一つ理由があるよ」
悠臣はそこでようやく七緒の方を向いて、いつもの柔らかな笑顔を見せた。
「君たち姉弟の名前だ」
「名前?」
「俺達の?」