愛され秘書の結婚事情
「……私も正直、理解できません」
七緒は悠臣の目から顔を隠すようにうつむき、冷えていく魚料理を見つめた。
「ただ私が我儘を通すと、母が責められるんです。東京で一人暮らしをしたいというのも、私の我儘でした。父は猛反対しましたが、母が口添えしてくれて、どうにか家を出ることが出来ました。これで私が結婚もせず家にも帰らないということになると、母はこれまで以上に、父や親族から責められることになります」
「何だそれ、横溝正史の小説の話!?」
「……実話です」
小さな溜め息をついて、七緒は再びナイフとフォークを手に取った。
「ですから、私を高く買って下さっている常務には、期待を裏切ることになり申し訳ないのですが……。来週の誕生日が過ぎた月曜日には、退職願を出させていただこうと思っています」