愛され秘書の結婚事情
「すげー……探偵みてぇ」
竜巳が感心したように声を上げたが、その場にいた全員が同じ思いだった。
「そういう学科を出ておられながら、全く畑違いの市会議員になられたということは、お父様は自分の夢を諦め、親の希望に沿った道を選択されたのでしょう。ですが自分の子供達までには、同じ道を強要するつもりはなかった。それゆえの、星座にちなんだ名付けなのでしょう?」
「……そうです」
昌輝は観念したように答えた。
「私の親や親族達とのしがらみがあり、表立って子供たちを擁護することは出来ませんでした。子供たちを庇う役は全て妻に任せ、私は敢えて厳しい当主の役を演じ、周囲の目を誤魔化す役割を果たしました」
「そんな……そんな……」
言葉も無く震える七緒を、昌輝を慈しみを持った目で見つめた。
「……北斗七星は、他の星を見つけるための指標になるほど明るく、開陽丸で有名な開陽星もある。開陽とは中国の言葉で、未来への希望を意味する。だからお前にも自らの力で輝いて、希望に満ちた人生を歩んで欲しいと思ってつけた」
次いで昌輝は、ポカンとしている息子の顔を見た。
「竜巳。お前の名前を取ったりゅう座は歴史ある古い星座で、紀元前からその存在が知られていた。伝説も数多く、一年中見ることが出来る。お父さんはこの星座が昔から好きで、その悠然とした大きな姿に憧れた。ヘビも神聖な生き物で、天に上って龍になるという伝承もある。お前にもその名に相応しく、大きな器の男に成長して欲しいと願って竜巳とつけたんだ」
「そんな話、俺、初めて聞いたんだけど……」
「初めて話したからな」
そう言って昌輝は笑った。