愛され秘書の結婚事情
「そう。今日本政府は、海外からの観光客を呼ぶために積極的に動いていて、実際に毎年、訪日外国人の数は増えている。彼らの観光目的は日本の古い歴史や文化、アニメやゲームといったソフト文化、そしてグルメだ」
ビジネスマンの顔に戻って、悠臣は言った。
「二〇二〇年の東京オリンピックに向け、サブマリンは渋谷に大きな商業施設を作る計画なんだ。横浜のラーメン博物館や広島のお好み村とか有名だけど、うちは和食・洋食、麺類にスイーツ、ほぼ全てのジャンルを網羅して、食の総合デパートみたいなビルにする予定だ」
「すげぇ……」
「メインターゲットは訪日外国人。だから当然スタッフには全員翻訳機を持たせるし、最低でも他国言語が一つ話せる者を雇う。マネージャークラスは全員、英語ともう一つ、中国語やポルトガル語などが話せる者を採用する」
悠臣はそこで、竜巳の顔を真っ直ぐに見た。
「僕のアメリカの友人で、起業家向けのビジネススクールを開いている男がいる。日系ブラジル人で、英語はもちろん日本語とポルトガル語、奥さんがイタリア人だからイタリア語も話せる。君には彼の学校で経営について学んで、さらに英語を完全にマスターして帰って来て欲しい。英語のみならず、ポルトガル語とイタリア語も、夫妻に習って困らない程度に話せるようになってもらいたい。無事勉強を終えて戻った暁には、君にビル内のワンフロアを任せる。働き次第では、ビル全体の総括マネージャー候補にする」
「え、と……勉強って、それはどのくらいの期間で……」
「二年だね。三年後にはビルも完成しているし、店をオープンする前に管理職クラスにはうちの研修を受けてもらうから」
「二年……」
悠臣の厳しい答えに、竜巳はゴクリと喉を鳴らした。