愛され秘書の結婚事情

 ふいに七緒が悟った、その時。

「……やってみたい」

 しばらく無言でいた竜巳が、独り言のようにポツリと言った。

「俺、自分は何も出来ない、無能な人間だと思ってた。けど、そんな俺にも確かに得意なことはあって……、その得意なことを仕事にも活かせるのなら、その仕事がしたい……」

「うん。君はまだ二十七歳だろう。なんだって出来るさ。失敗したらまたそこからやり直せばいいんだ。昔、大失敗した経験のある僕が言うんだ、間違いないよ」

「お義兄(にい)さんも? 失敗したことあるんですか?」

 いつの間にか悠臣を姉の結婚相手と認めた竜巳は、自然と彼をお義兄さんと呼んだ。

 そのことに七緒はびっくりしたが、悠臣は「うん、そうなんだ」と笑顔で答えた。

「アメリカでね、仕事と結婚、両方に失敗して、日本に逃げ帰った。だけどそのお陰で、君のお姉さんに会えた。だから、僕は確かに失敗したけど、結果オーライだったと思ってる」

「ふーん……」

 そこで竜巳は七緒を見て、「だって。愛されてるねー、姉ちゃん」と、いつものヤンチャな顔で笑った。

「……うるさい」

 七緒は赤い顔で弟を黙らせたが、正直言うと、さきほどの悠臣の言葉は飛び上がるほど嬉しかった。
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