愛され秘書の結婚事情

2.


 日曜日の夜。

 東京視察中だった央基は突然の父親からの電話に驚いたが、その内容にもっと驚いた。

「央基。七緒ちゃんとの結婚は諦めろ」

「は!?」

 信じられない父親の第一声に、当然彼は抗議の声を上げた。

「何なんだよ、一体。どうしていきなりそんな……!」

「今日、七緒ちゃんと会った」

「は? え? あいつ今、島根にいるの?」

「いや、もう帰った。その時に、彼女の婚約者にも会った」

「悠臣ってヤツだろ」

「そうだ。桐矢悠臣。株式会社サブマリンの会長、海堂隆盛氏の甥で、副社長だった桐矢直毅氏の実子だ。現在、サブマリンの常務取締役だそうだが、いずれあの会社は悠臣君が社長になるだろう」

「えっ……」

 悠臣の役職や出自まで知らなかった央基は、一瞬言葉を失くして沈黙した。

(七緒のやつ、俺にはそこまで話さなかったな!)

「その彼が、うちにビジネスの話を持ち込んで来た。サブマリン系列の店で、関東で人気のパンケーキ、和カフェとジェラードのチェーン店があるが、それらの中四国と九州への出店の際は、うちの系列のデパートやホテルのみでの展開にする、独占契約を結ぶ話だ」

「えっ!」

「あとな。うちが関東へ進出する際は、彼のコネクションを使って、有益な取引相手との橋渡しもすると言ってくれた。自分はいずれ佐々田の身内になるから、佐々田家と長い付き合いのうちを信用して、今のうちから太いパイプを作っておきたいそうだ」

「そ、それで父さん、まさかその話を……」

「当然、受けた。当たり前だろう。こんないい話、蹴る方が馬鹿だ」
< 269 / 299 >

この作品をシェア

pagetop