愛され秘書の結婚事情
二度目の絶望の後、央基は思った。
七緒が東京でどんな男と出会っても、必ずそいつよりもイイ男になってやる、と。
そしてもう一度、彼女とやり直すチャンスを得たら、もう二度とその手を離さないと。
そう決心しての、八年だった。
専務取締役としての重責にも臆せず、彼は精力的に働いた。体を鍛え外見内面ともに磨き、数え切れない女性から求愛された。
悠臣という男に会ったことはない。名前もつい一昨日知った。
どんな相手だろうと、どうせ自分の敵ではない、と思っていた。
だが、央基が東京で仕事をしている間に、たった一日であの桐矢悠臣という男は。
七緒と両親を和解させ、あんなに姉の結婚を嫌がっていた弟を味方に変え、さらに央基の父親までも懐柔した。
信じられない早業だ。一体どんな魔法を使ったのか、と思う。
「ははっ……上等だ」
乾いた笑いを洩らし、央基は何もない壁の一点を見つめた。
すでにこれはもう、七緒を取り合う恋愛勝負ではなくなっていた。
どちらがより男として勝っているか、そんなプライドを賭けた戦いに変わっていた。
少なくとも央基は、今回のことで悠臣に猛烈な敵愾心を抱いた。