愛され秘書の結婚事情
3.
「ふぅ、ただいま!」
悠臣のマンションに到着し、リビングに足を踏み入れた七緒は、軽く背伸びをして“我が家”に挨拶した。
彼女の後ろから部屋に入った悠臣が、その後姿を見てクスリと笑う。
「今、誰に挨拶したの」
「え? 家にですけど……」
「もしかして七緒は、一人暮らししてた時もいつもそうやって、家に挨拶してた?」
「はい。普通にしてました」
そこで七緒は首を傾げ、「おかしいですか?」と言った。
「おかしいって言うか……可愛い」
そう言って、悠臣は彼女の腰を引き寄せて、額に軽くキスをした。
「今、馬鹿にしました?」
「してないよ。それより七緒さん。僕、コーヒーが一杯飲みたいんだけど……淹れてもらえるかな」
どうやら早朝からの強行軍に疲れたらしく、悠臣はリビングのソファに倒れ込むと、ジャケットを背凭れに投げるように掛けた。
「はい。ちょっと待ってて下さいね」
同じ行程をこなした七緒はけれど、生き生きした笑顔で応じ、軽い足取りでキッチンカウンターに向かった。
その背中を見て、悠臣は「若いなぁ……」と思った。