愛され秘書の結婚事情

「七緒……。そんなお礼はいらないよ。今日のことは、僕が僕自身のためにやったことだから」

 七緒は顔を上げてフッと笑い、「きっとそう仰ると思いました」と言った。

「あなたがそういう人だから、私はこの先ずっと、あなたに抱いてもらえなくても、あなたのために尽くします。それだけが唯一、私があなたに出来る恩返しですから」

 指先で涙を拭い、七緒はそう言って笑った。

「それは悪い冗談だ」

 悠臣は驚いた顔をし、涙目の彼女の頬に触れた。

「もし本気で僕に恩返しがしたいと思うなら、別の形で返して欲しい」

「はい。ご希望があれば仰って下さい」

「うん。まずプライベートの時間は、その堅苦しい敬語をやめること」

「えっ……」

「二つ目は、何か困ったことや悩みごとがあった時は、真っ先に僕に相談すること」

「…………」

「三つ目は、毎朝毎晩、キスの挨拶を欠かさないこと」
< 279 / 299 >

この作品をシェア

pagetop