愛され秘書の結婚事情
廊下に出ると、手ぐすね引いて待っていた同僚達が、好奇心を露わにした目で彼女を取り囲んだ。
「佐々田さんっ。室長はなんて?」
「怒られた?」
「ていうかあの彼って、やっぱり佐々田さんの恋人なんでしょ!?」
しかし七緒は外野をジロリと睨みつけ、「違います」とハッキリ言った。
「あの男は昔から、ああいう悪ふざけが好きなんです。自分勝手でガキなだけです。私とあの男は、“ただの知り合い”です」
びっくりする同僚達を尻目に、七緒は「失礼します」と一言断り、大股で常務室に戻った。
七緒が常務室に入ると、いつ出社したのか、悠臣が来ていた。
びっくりする彼女を見て、悠臣はいつもの笑顔で「おはよう。もうお昼だけど」と言った。
七緒は秘書の顔になり、「おはようございます」と深々と頭を下げた。
「出社したら、何だか社内がざわついていたんだけど。何かあったの」
「まだご存知でなかったんですね」
七緒は嘆息し、言った。
「先程、央基がまたここへ来ました」
「え」
「常務にお話しがあるとのことで、不在の旨伝えたところ、いきなり私にキスして来ました」
「え!」
「それが常務への伝言とのことです」