愛され秘書の結婚事情
悠臣は彼女の顔を軽く持ち上げ、今日何度目か忘れたキスをした。
「……あなたとするキスとは、別物です」
「うん。だけど僕は嫌なんだ。君の髪の毛一本も、他の男に触れさせたくない。心が狭いと言われても、嫌なものは嫌なんだ」
真剣な顔でそう訴える悠臣を、七緒は目を細めて見つめた。
「確かに心が狭いですけど……、私も同じだから、文句は言えません」
そう言って彼女は手を伸ばし、そっと彼の頬に触れた。
「あなたの眼差しも唇も、髪の毛も指先も、心も体も全部、独り占めしたい。他の女性に渡したくありません」
「そこは、渡さない、って言い切っていいんだよ?」
悠臣は笑顔で言うと、彼女の体を抱き締めた。
七緒は笑って、「じゃあ、渡しません」と言い直した。
静かに見つめ合い、二人は同時にクスリと笑った。
「本当は……」
甘えるように広い胸に凭れ、七緒はようやく本音を口にした。
「すごく、嫌でした。……央基にキスされて。ショックでした。人目を避けて、医務室の洗面所をお借りしてうがいと歯磨きをしたんですが、途中で涙が止まらなくなって……また、十倉先生のお世話になってしまいました」
「そうだと思った」
悠臣は小さく息を吐き、強がりな恋人の顔をそっと上向かせた。
「七緒さん」
「はい……」
「僕には、嘘ついてもダメだから。絶対にバレるから。だから、無理しなくていいから。泣きたければ泣いていいんだよ」
柔らかな瞳に見つめられて、七緒はけれど、泣かずに笑顔になった。
「いえ、今度こそ本当に大丈夫です。悠臣さんのお陰で今日のことは、もうかさぶたになりかかっているから……」
「そう。それは良かった」
悠臣は静かに微笑み、彼女の頬にそっとキスをした。
七緒はそのキスを受けて、幸せそうに微笑んだ。