愛され秘書の結婚事情

 束の間の逢瀬を終え、二人は会社に戻った。

 すでに常務秘書のキスのニュースは社内中に知れ渡っており、会議に出席した悠臣は他の役員から、「さっそく彼女に浮気されたそうじゃないか」とからかわれた。

「相手は塚川グループの御曹司だって? ちょっと君の方が分が悪くないか?」

「何しろ相手は、西の不動産王とか言われている塚川グループだからなぁ。あっちの方が年も若いし、乗り換えられるのも時間の問題じゃないか」

「ご心配なく。彼女にその気はありませんよ」

 意地の悪い幹部達に野次られながら、悠臣はそれでも余裕の笑顔で答えた。

「相手の男が、諦めが悪いだけです。彼女も困っているんです」

「本当かなぁ?」

「上手いこと男二人を手玉にとって、どっちがお得か見極めている途中じゃないの」

「ああいう真面目そうなのに限って、裏では男を食い物にしてたりするんだよな」

 しかしその直後、悠臣は表情を一変させた。

 大きな手の平で、彼はバン、と机を叩いた。
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